Created on September 08, 2023 by vansw

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す。 街を存続させるには、それらの矛盾点をうまく解消しなくちゃなりません。そのためのいく


つかの装置が設けられ、制度として機能しています。 念の入ったシステムです」


影は白い息を吐き、両手をごしごしと擦った。


「装置のひとつは気の毒な獣たちです。獣たちを日々門から出入りさせることによって、また季 節を巡らせて彼らを繁殖させたり淘汰したりすることで、街は潜在的なエネルギーを外に放出し 処理しています。 あんたがここでやっていた図書館の夢読みも装置のひとつです。 古い夢として 集積された精神の断片が、その作業によって昇華され、宙に消えていきます。 おれが言いたいの は、この街はとても技巧的な、人工的な場所だってことです。 すべての存在の均衡が精妙に保た れ、それを維持するための装置が怠りなく働いている」


影の言ったことを呑み込むのに少し時間がかかった。


「そしてそのバランスを維持するために、街は恐怖心を手段として用いている。そういうことな のか?」


「そのとおりです。 南の溜まりが危険な場所だという情報を、街は人々の頭に植え付けています。 なぜなら街の住民が壁の外に出る手段は、この溜まり以外にないからです。 北の門は門衛が目を 光らせているし、 東門は塗り込められ、川の入り口は頑丈な鉄格子で塞がれています。 壁の外に 出たいと考える人間がそれほど多くこの街にいるとは思えませんが、それでも街は脱出の可能性 を封じ込めようとしているのです」


「しかし我々はそれを恐れる必要はない」


影は背いた。 「恐れる必要はありません。 あんたは幸いなことにまだ魂を奪われてはいない。


177 第一部