Created on September 07, 2023 by vansw

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降りしきる雪のせいもあり、通りを行く人の数は僅かだったが、それでも私たちは何人かの住


民に目撃された。 彼らはただその場に立ち止まって、我々の姿を黙って見ていた。 この街では走 っている人の姿を目にするのはきわめて稀なことだ。彼らはどこかに通報するのだろうか? <夢読み〉が影と再び一緒になって、街から逃げだそうとしているようだ、と。あるいはそんな


ことは彼らにとって何の意味も持たないことなのだろうか?


この街に来て以来、 運動というものをまったくしていなかったせいで、いくら軽いとはいえ、 影を背負って街を走り抜けるのは容易いことではなかった。 私は堅く白い息を、音を立てて宙に 吐き続けていた。吸い込む雪混じりの大気は冷たく、肺の内側が針先で突かれるように痛んだ。 ようやく南の丘の麓に到着したところで、私は呼吸を整えるために立ち止まり、背後を振り返っ た。


ふもと


「まずいですね」と影が言った。 「見てごらんなさい。 獣を焼く煙がずいぶん細くなっています」 影の言うとおりだ。降りしきる雪を通して、北の壁の向こうに見える煙は、先刻見たよりも明 らかに細まっていた。


「きっとこの雪で、火が消え始めたんでしょう」と影は言った。「だとしたら、門衛は追加のな たね油を取りに小屋に戻ってくる。 そしておれが囲い場からいなくなってることを知るでしょう。 足の速い男です。 ちっとばかりまずいことになる」


影を背負って南の丘の急な斜面を登るのは、容易ではなかった。 しかしいったん心を決めてや り始めたことだ。途中で音を上げるわけにはいかない。 そして影が言うように、街はそうなろう と思えばどこまでも危険になり得るのだ。私はコートの下に汗をかきながら斜面を登り続けた。


たやす


まれ


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