Created on September 07, 2023 by vansw

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け与えられるものか、あまり自信はなかったが。


「そこにある角笛を持っていってください」と門衛小屋を抜けるときに、私の影が背中から言っ た。


「角笛を?」


「ええ、そうすれば、 門衛が私たちのあとを追跡してくるのがむずかしくなる」


「ずいぶん腹を立てるだろうな」、 私は生々しく光る手斧と鉈を横目で見ながらそう言った。 「でも必要なことなんです。 この街は本気になればどこまでも危険になれます。 それに備えなく ちゃなりません」


理由はよくわからなかったが、言われたとおり壁に掛けてあった角笛を手に取り、 コートのポ ケットに入れた。 長く使い込まれ、ほとんど飴色になった古い角笛だ。獣の単角で造られている ようで、細かい彫り物が施されている。


「時間はあまりありません」と私の影は言った。 「急ぎましょう、自分の足で走れなくて申し訳 ないんですが」


「君を背負って街を横切れば、多くの人に目撃されそうだ」


「おれたちが一緒になって逃げたというのは、どうせすぐにわかっちまうことです。とにかく一 刻も早く南の壁に着かなくては」


影を背負って門衛小屋をあとにした。 もう後戻りはできない。川に達して、旧橋を南に向けて 渡った。ときどき雪片が目に入って前方が見えなくなり、獣たちにぶつかった。私がぶつかるた びに、彼らは小さな奇妙な声を上げた。


調


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