Created on September 07, 2023 by vansw
169
け与えられるものか、あまり自信はなかったが。
「そこにある角笛を持っていってください」と門衛小屋を抜けるときに、私の影が背中から言っ た。
「角笛を?」
「ええ、そうすれば、 門衛が私たちのあとを追跡してくるのがむずかしくなる」
「ずいぶん腹を立てるだろうな」、 私は生々しく光る手斧と鉈を横目で見ながらそう言った。 「でも必要なことなんです。 この街は本気になればどこまでも危険になれます。 それに備えなく ちゃなりません」
理由はよくわからなかったが、言われたとおり壁に掛けてあった角笛を手に取り、 コートのポ ケットに入れた。 長く使い込まれ、ほとんど飴色になった古い角笛だ。獣の単角で造られている ようで、細かい彫り物が施されている。
「時間はあまりありません」と私の影は言った。 「急ぎましょう、自分の足で走れなくて申し訳 ないんですが」
「君を背負って街を横切れば、多くの人に目撃されそうだ」
「おれたちが一緒になって逃げたというのは、どうせすぐにわかっちまうことです。とにかく一 刻も早く南の壁に着かなくては」
影を背負って門衛小屋をあとにした。 もう後戻りはできない。川に達して、旧橋を南に向けて 渡った。ときどき雪片が目に入って前方が見えなくなり、獣たちにぶつかった。私がぶつかるた びに、彼らは小さな奇妙な声を上げた。
調
1
169 -
第