Created on September 07, 2023 by vansw

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四十歳・・・・・・考えてみれば、 十七歳のときからもう二十三年間にわたって、ぼくはきみを待ち続 けていることになる。そのあいだ、きみからはまったく連絡がない。 沈黙と無は、相変わらずほ くのそばにぴったり付き添っている。 今では彼らの存在にすっかり慣れてしまった。 というか、 彼らは既にぼくの一部になっていた。 沈黙と無・・・・・・彼らを抜きにしては、ぼくという人間を語る ことはできなくなっている。


そのようにして四十歳の誕生日をこともなく誰に祝われるでもなく) 通過する。 会社での仕 事は安定したものになっている。地位もそこそこ上がり、収入にも不足はない(というか、何か を強く欲するということがぼくにはほとんどないのだ)。 故郷の年老いた両親はぼくが結婚して、 子供をもうけることを強く望んでいる。 しかし気の毒だとは思うが、そんな選択肢は与えられて いない。


きみのことを変わらず考え続ける。 心の奥の小部屋に入っていって、 きみの記憶を辿る。 きみ のくれた手紙の束、一枚のハンカチーフ、 そして壁に囲まれた街について綿密な記述が書き込ま れたノート。ぼくは小部屋の中でそれらを手に取り、飽きることなく撫で回し、眺めている(ま るで十七歳の少年のように)。 その部屋にはぼくの人生の秘密が収められている。 他の誰も知ら ない、ぼくについての秘密だ。きみ一人だけがそこにある謎を解き明かすことができる。


でもきみはいない。きみがどこにいるのか知る術はない。


四十五歳の誕生日が巡ってきて、そのあまり愉快とは言いがたい里程標を通過して間もなく、


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