Created on September 06, 2023 by vansw

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秋は過ぎ去り、季節は冬へと移っていった。 カレンダーが最後のページとなり、人々はコート


を身に纏い、街にはいつもどおりクリスマス・ソングが流れていた。同級生たちはみんな大学受 験のことで頭がいっぱいになっている。 でもそんなことどうだっていい。 家にいても学校の教室 にいても、電車に乗っていても道を歩いていても、ぼくはきみのことだけを考えている。 そして きみと二人で作り上げた、その名前を持たない街のあらゆる細部に思いを馳せる。 それをぼくな りに更に細かく補強し、色づけしていく。


「わたしは、いろんなことにたくさん時間がかかるの」ときみは言った。ぼくはその言葉を、ま じないの文句のように頭の中で何度も反復する。 そして時間が通り過ぎていく様子を、辛抱強く 見守っていた。しょっちゅう腕時計を眺め、一日に何度も壁のカレンダーに目をやり、ときには 歴史年表まで開いてみた。 時間はひどくのろのろと、それでも決して後戻りすることなくぼくの 中を通過していった。 一分間にちょうど一分ずつ、一時間にちょうど一時間ずつ。時間はゆっく りとしか進まないが、後戻りはしない。 それがその時期にぼくが身をもって学んだことだった。 当たり前のことだが、ときには当たり前のことが何より重要な意味を持つ。


そしてある日、とうとうきみからの手紙が届く。 分厚い封筒、長文の手紙だ。


まと


115 第一部