Created on September 06, 2023 by vansw

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して人々は節約しながら、工夫してつましく暮らしている」


「街には役所みたいなものは存在するんだろうか? いろんな方針を定めたり、人々に役割を与 えたりする機関が」


「それほどの規模の街ではないから、たぶん必要に応じて、人々のあいだで話し合いがあり、簡 単なルールが決められるのでしょう。 でもそのへんのことはよくわからない。 わたしがその街に いたのは、ほんの小さな子供の頃だから」


「街には単角を持つ美しい獣のほかに、何か動物はいるのかな? たとえば犬とか猫とか、牛と か馬とか」


きみは首を振る。 「そんなものを見かけたことは一度もない。 街には、単角獣のほかにはたぶ んどんな動物もいないと思う。 犬も猫も家畜も(従ってそこにはバターも牛乳もチーズも畜肉も ない。 代用品は別にして)。もちろん鳥は別よ。鳥はどれほど高い壁も自由に越えて行き来する 「から」


「単角獣は影を持っているの?」っ


「ええ、獣たちは影を持っている。ほかのどんなものにも影はある。影を持たないのは人間だ け」


「そしてきみじゃないきみはほんもののきみは今もその壁の中の街で暮らしているんだ ね」


「ええ、ほんもののわたしはそこで暮らしている。 前にも言ったように、そこの図書館に職を得 ている」


111 第一部