Created on September 06, 2023 by vansw
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油を使ってランプを灯し、調理をするの。ストーブは薪ストーブ」
「水道は?」
「西の丘の泉から管を使って新鮮な水を引いている。蛇口を捻れば飲み水が出てくる。井戸もた くさんあるし、それに加えて美しい川も流れている。 だからどんな日照りの夏にも、街が水に不 自由することはないの。古い時代に造られた上水道と下水道もそのまま残っていて、水洗のトイ も使える」
「食料品は?」
「ほとんどの食料品は自給自足でまかなえる。 それに街に住む人々はとても少食なの。 与えられ た環境に順応して、あまり多くを食べなくて済む身体になっているから」
「進化したんだね」とぼくは言う。
「たぶん」ときみは言う。
「ものを製作する人はいるのかな」
「食器や道具や衣服を専門に作る人はいないけれど、だいたいみんな手作りで間に合わせている。 必要に応じて道具の交換があり、貸し借りがある。また昔からあるものを修繕しながら大事に使 っている。この街には残されているものがたくさんあるの。 街を出て行った人たちが、持ちきれ ずに残していったものがね。どうしても必要とされるものは、ときおり外の世界から運ばれてく る。簡単な物々交換のようなことが、きっとどこかで行われているのでしょう」
なたね油が大事な燃料になっているんだね?」
「ええ、それが不足することはない。 なたね畑はたくさんあるし、油は豊富に簡単に採れる。そ
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