Created on September 06, 2023 by vansw

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壁の外の居留地で身を寄せ合って眠る。彼らは伝説の中の獣たちであり、この街の周辺でしか生


存できない。 街中に生育する特殊な木の実や木の葉しか口にしないからだ。見た目には美しいが、


きょうじん


強靭な生命力に欠ける。その角は鋭いけれど、彼らが街の住民を傷つけるようなことはない。


壁の内に住む人々は壁の外に出ることができないし、壁の外にいる人々は壁の内に入れない。 それが原則だ。街に入る人は影を携えていてはならないし、街の外に出る人は影を携えていなく てはならない。 門衛も街の住民の一人であり、影を持ってはいないが、職務上、必要に応じて壁 の外に出ることを許されている。だから彼は、街の外に広がる林檎林から林檎をもいで、好きな だけ食べることができた。 そして余ったぶんは人々に気前よく分け与えていた。とても味の良い 林檎だったので、門衛は多くの人々に感謝された。 獣たちは慢性的に食料に不足し、いつも飢え ていたにもかかわらず、 林檎を口にすることはない。 彼らにとってそれは不運なことだ。 林檎な ら居留地の周りにいくらでも実っていたのだから。


街の人口は明らかにされていないがあるいは誰もそんなことは知りたがらないのかもしれ ないが その数は決して多くない。住民の大半は街の北東部、干上がった運河沿いにある「職 工地区」か西の丘のなだらかな斜面にある「官舎地区」に集まって暮らしている。「官舎地区」 に住む人が「職工地区」に足を運ぶことはまずないし、その逆もない。


その街の成り立ちについて、ぼくにはもちろん数多くの疑問があった。


「そこには電気は通じているの?」とぼくは尋ねる。


「いいえ、電気はない」ときみは答える。ためらいもなく。 「電気もガスもない。人々はなたね


たずさ


109 第一部