Created on September 06, 2023 by vansw
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その夏のあいだずっと(ぼくが十七歳、きみが十六歳の夏だ)、顔を合わせるときみは熱心に その街の話をした。 素晴らしい夏だった。ぼくはきみに恋をしており、きみはぼくに恋をしてい た(と思う)。 ぼくらは会うと手を握り合い、人目につかないところで唇を重ねた。 そして額を 寄せ合うようにして、その街について飽きることなく語り合った。 次郎!
街は高さ八メートルほどの頑丈な壁に囲まれている。 遥か昔からそこにある壁だが、特別に硬 質な煉瓦で念入りにつくられ、煉瓦は今に至るまでひとつとして欠けていない。 一本の川が緩く
まちなか
蛇行しながら街中を流れ、その土地を北と南にほぼ均等に分けている。川には三本の美しい石の 橋がかかっている。豊かに装飾された石造りの旧橋の近くには大きな中州があり、そこには立派
かわやなぎ
な川柳が繁り、しなやかな枝を川面に垂らしている。
壁の北側に門がひとつある。かつては東側の壁にも同じような門がついていたのだが、それは 今では塗り込められ、堅く塞がれている。北の門――現在の唯一の街の出入り口は一人の屈 強な門衛によって護られている。門は朝と夕方に一度ずつ、獣たちを通過させるために開かれる。 鋭い単角を持つ寡黙な黄金色の獣たちは、朝に整然とした列を作って街の中に入ってきて、夜は
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