Created on September 06, 2023 by vansw
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「やあ」と私は言った。
「こんちは」と影は私を見て、力なく返事をした。私の影は最後に見たときよりひとまわり小さ
く見えた。
「元気にしている?」と私は尋ねた。
「おかげさまで」、その言葉にはいくぶん皮肉が混じっているように聞こえた。
影の隣に腰を下ろそうかと思ったが、 何かの拍子に再びひとつにくっついてしまうことを恐れ、 立ったまま話をすることにした。 門衛が言うとおり「引き剥がし」は簡単な作業ではないのだ。 「一日ずっとこの「囲い場」にいるのかい?」
「いや、ときどきは壁の外に出てますよ」
「何か運動でもしているの?」
「運動ねえ・・・・・・」、影は眉をひそめ、門衛の方を顎で指した。「あいつが壁の外で獣を焼くのを手 伝わされるくらいのものかな。 シャベルでせっせと地面に穴を掘るんですよ。 そこそこの運動に はなりますが」
「獣を焼く煙は、うちの窓からもよく見えるよ」
「かわいそうに。毎日のようにあいつらは死んでいく。みたいにばたばたとね」と影は言った。 「その死体をひきずって運んで、穴に放り込み、なたね油をかけて焼くんです」
「いやな仕事だね」
「心愉しい仕事とは言えませんね。焼いても臭いがほとんどしないことだけがまだ救いですが」 「影は他にもここにいるのかな? 君の他にも」
Res
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