Created on September 06, 2023 by vansw

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部屋に戻ると、空は終始曇っていたにもかかわらず、 朝の光が思ったより強く眼を痛めつけて いたことがわかった。瞼を閉じると涙がこぼれ、頬をつたった。 鎧戸を下ろした暗い部屋の中で 私は目を閉じ、闇に浮かんでは消えていく様々な形の模様を眺めていた。


いつもの老人が部屋にやって来た。彼は冷たいタオルを私の眼にあてて、温かいスープを飲ま せてくれた。スープには野菜とベーコンのようなもの(でもベーコンではないもの)が入ってい た。 それは私の身体を芯から温めてくれた。


老人は言った。 「雪の朝の光はたとえ空が曇っていても、あんたが思うているより遥かに強烈 だ。あんたの眼はまだ十分に回復しちゃおらん。 何しに外になんて出たんだね?」


「獣たちを見に行ったんです。何頭かが死んでいました」


「ああ、冬が来たからな。 この先さらに多くが死んでいく」


「獣たちはどうしてそんなにあっけなく死んでしまうんでしょう?」


「弱いんだよ。 寒さと飢えにね。 昔からずっとそうだった。 変わることなく」


「死に絶えはしないのですか?」


老人は首を振った。 「ああやって大昔から細々と生きながらえてきたんだ。 これから先も同じ ようにやっていくだろう。冬には多くが命を落とすが、やがて交尾期の春がやってきて、夏には 子供たちが誕生する。 新しい生命が古い生命を押しやっていくのだ」


「獣たちの死骸はどうするのですか?」


「焼くんだよ。 門衛が」、老人は両手をストーブの火で温めた。 「穴に放り込んで、なたね油をま いて火をつけるんだ。 午後になるとその煙が街のどこからも見える。 それが毎日のように続く」


101 第一部