Created on September 04, 2023 by vansw
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「少しずつ」と私は言う。「でもひとつ夢を読み終えるとかなりくたびれる。 身体の力が失われ るみたいに」
「まだ熱が少し残っているのでしょう。 でもやがて疲れはとれてきます。 熱はどうしても一度は 出るものだから。 熱を出し切ればあとは落ち着きます」
それは 高熱を一時的に出すことは おそらく新任の夢読みとしての通過儀礼のようなも のであり、避けて通れない過程なのだろう。そうやって私は少しずつこの街の一部として受け入 れられ、システムに同化していくのだ。私はそのことを喜ばしく思うべきなのだろう。君もこう してそれを喜んでくれているのだから。
長く続いた湿っぽい秋がようやく終わりを告げ、 厳しい冬が街に到来した。 獣たちは既にいく つかの命を失っていた。 最初のまとまった雪が降った朝、何頭かが五センチほど積もった居留地 の雪の中に、冬の白みを増した金色の身体を横たえていた。年老いた獣たち、どこか身体に弱い 部分を抱えた獣たち、何らかの理由で親に見捨てられた年少の獣たち――まず死んでいくのはそ のようなものたちだ。 季節が彼らを厳しく選別する。 私は壁の望楼に上って、そんな獣たちの死 体を眺めていた。もの哀しく、また同時に心奪われる光景だった。 朝の太陽は雲の奥で鈍く輝き、 その下で生きている獣たちが吐く白い息が、朝霧のように宙に平らに浮かんでいた。
夜明けからほどなく角笛の音とともに、門衛がいつものように門を開け、獣たちを中に導き入 れる。生きた獣たちが立ち去ったあとの居留地には、大地に生じた瘤のように、何体かの死骸が 残されていた。私は朝の光に眼が苦痛を訴えるまで、その光景を魅入られたように眺めていた。
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