Created on September 04, 2023 by vansw

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ひとつの夢を読み終えると、しばしの休息をとらなくてはならない。机に肘をついて両手で顔 を覆い、その暗闇の中で眼を休めて疲労の回復を待つ。 彼らの語る言葉は相変わらずよく聴き取 れなかったが、それが何らかのメッセージであることはおおよそ推測できた。 そう、彼らは何か を伝えようとしているのだ――私に、あるいは誰かに。でもそこで語られるのは私には聴き取る ことのできない話法であり、耳慣れない言語だった。それでもひとつひとつの夢は、それぞれの 歓びや悲しみや怒りを内包しつつ、どこかに吸い込まれていくようだった――私の身体をそのま ま通り抜けて。


夢読みの作業を重ねるうちに、そういう「通過の感触」のようなものを、私は強く感じるよう になっていった。彼らの求めているのは、通常の意味合いにおける理解ではないのかもしれない。 そう思えることもあった。 そして通過していくそれらは、ときとして私の内側を奇妙な角度から 刺激し、私自身の中にある、長く忘却されていたいくつかの感興を呼び覚ました。瓶の底に長く 溜まっていた古い塵が、誰かの息吹によってふらりと宙に舞い上がるみたいに。


君は休息をとっている私のために、温かい飲み物を運んできてくれた。 薬草茶ばかりではなく、 ときには代用コーヒーや、ココアのような(しかしココアではない) 飲み物を。 この街で出され る食べ物や飲み物はおおむね粗朴なものであり、多くは代用品だった。 しかし味そのものは決し て悪くなかった。そこにはどう表現すればいいのだろうどこかしら友好的な、懐かしい 味わいが感じられた。人々は質素に、 しかし様々な工夫を重ねつつ生活を送っていた。



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「あなたはずいぶん夢読みに慣れてきたようです」、君は机の向かい側から、私を励ますように 言う。


そぼく



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