Created on September 04, 2023 by vansw

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ていた。 先ほどまでの荒涼とした冷気はどこかに消え失せていた。それを知って私は安堵した。 「ずっと熱があって、ここに来ることができなかった。 起き上がれなかったんだ」


君は何度か小さく背いたが、とくにそれについての意見や感想はない。慰めの言葉みたいなも のもない。私が高熱を出していたことを既に誰かから知らされていたのか、あるいは何も知らさ れていなかったのか、表情からは判断がつかない。 あるいはそれは「もしそうだったとしても決 して不思議はない」という表情だったかもしれない。


「でももう熱は引いたのですね?」


「身体を動かすと、節々がいくらかぎくしゃくする。 でも大丈夫、 仕事にはかかれるよ」


「熱くて濃い薬草茶が、 残っている熱を追いやってくれるでしょう」


君が作ってくれた熱くて濃い薬草茶を時間をかけて飲み終えると、身体は温まり、頭はより明 瞭になった。 私は書庫の中央に置かれた机の前に座る。 分厚い木材で作られた古い机だ。 それは どれほど長い歳月、 ここで夢読みに使用されてきたのだろう? そこには無数の古い夢の残響が 浸み込んでいる。私の指先は、すり減った机の木目にそのような歴史の気配を感じ取る。


書庫の棚には数え切れないほど多くの古い夢が並んでいる。 棚は天井近くまであって、上の方 にある古い夢を取るには、君は木製の脚立を用いなくてはならない。 長いスカートの下からのぞ いている君の脚は、すらりとして白く、若々しい。その美しい形をした瑞々しいふくらはぎに、 心ならずも見とれてしまうことになる。



その日に読まれる古い夢を選んで、机に並べるのは君の役目だ。 君は帳簿を片手に、番号を照



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