Created on September 04, 2023 by vansw
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少し明るくなった。 ストーブにも火を入れようかと思ったが(中にはすぐに火がつけられるよう に薪が用意されていた)、それが許された行為であるのかどうかわからないし、部屋の中はそれ ほど冷え込んでいるわけでもなかった。だからストーブの火はつけないことにした。 コートの襟 を合わせ、 マフラーを首に巻き直し、 ポケットに手を突っ込んでひとまとめの時間をやり過ごし た。
やはり物音ひとつ聞こえない。
私が高熱を出して自宅で寝込んでいるあいだに、何かしら異変が起きたのだろうか? 図書館 の運営システムに変更がなされたのだろうか? 私が〈夢読み〉として不適格であることがあら ためて明らかになり、その結果私はもう君に会うことができなくなったのだろうか? いくつか の不穏な可能性が私の頭を去来する。 しかし考えをまとめることができない。 何かを考えようと すると、意識は重い布袋となって、底も知れぬ深みに沈んでいった。
まだ身体にいくらか熱が残っていたのかもしれない。私はベンチの上で、壁に背をもたせかけ たまま、いつの間にか眠り込んでしまった。 どれくらい眠っていたのだろう。でも、そんな不自 然な姿勢にもかかわらず、 深い眠りだった。 何かの物音ではっと気がつくと、私の前に君が立っ ていた。君は最初に会ったときと同じセーターを着て、胸の前で腕を組み、心配そうに私を見お ろしていた。眠っているあいだに君が火をつけてくれたのだろう。ストーブの中に赤い炎がちら ちらと揺れているのが見えた。 薬罐が白い湯気を上げていたとすれば、私は思いのほか長く深 く眠っていたことになる)。そしてランプはより大きく明るいものに取り替えられていた。その 熱と明るさによって、 そして君がそこにいることによって、部屋はすっかり以前の図書館に戻っ