275

針を持たない古い腕時計を身につけ、いつもスカートをはいている一人の老人――その謎めい た存在は何を意味しているのだろう。そこには何らかのメッセージが…

274

に呼応するかのように、上に載せていた黒い薬罐が勢いよく白い湯気を上げた。 子易さんはほと んど反射的にさっと身体をねじってそちらに目をやり(普段の物…

273

あの時計台と同じだ、と私は思った。 あの壁に囲まれた街の、川べりの広場に立っていた時計 台と同じだ。文字盤はあるが、針はない。

272

猫のように、両手を机の上にちょこんと載せた。この半地下の真四角な小部屋にこうして子易さ んと二人でいることは、何より自然な出来事であるように私には感…

271

適度に甘く、きりっと酸っぱく、自然な滋味が身体にじわりと沁みていった。

子易さんは言った。「いろんな薪を試してみ…

270

ちろん紺色のベレー帽。 上着は厚い生地のツイード、そういった衣服を彼はずいぶん気持ちよさ そうに着こなしていた。 コートは着ていない。おそらく玄関で…

269

放り出す

いつ

) 되돌아오다.

チャ<…

268

に図書館が購入する新刊書籍を、与えられた予算内で選択しなくてはならない。決定権はいちお う私に委ねられているが、 もちろん私個人の好みだけで図書館の…

267

やがてストーブ全体がしっかり暖まると、水を入れた薬罐をその上に載せた。 しばらくして薬 罐がかたかたと音を立て、白い湯気を勢いよく吐き始めると、その…

266

うことはこの場では質問しない方がいいだろうという気がなんとなくしたからだ。

煙突の清掃が終わるのを二日間待ち、そ…

265

「この建物で、薪ストーブを使っている部屋は他にもあるのかな?」

添田さんは首を振った。 「いいえ、この館内で薪ス…

264

35

十二月に入ってその年最初の強い寒気がやってきた。 はらはらと雪が舞った。 私は試しに館長 室を真四角な半地…

263

まばら.

子易さんは強く背いた。

「もちろんですとも。 ここはあくまでわたく…

262

ほど

程よい

적당하다

引き払う

261

そのへんの不用品をとりあえずかき集めてきたという感じのものだ。 それらがその部屋に置かれ た家具のすべてだった。 装飾らしきものは皆無、壁は淡く黄ば…

260

軋む (4

上方

うえほう

とがある。廊…

259

「そうです。 この図書館の中にあります」

子易さんは長年にわたって使い込まれてきたらしいタータンチェックのマフラ…

258

やかに挨拶をした。 でもしばらくはマフラーも手袋もとらなかった。ただベレー帽を脱いだだけ

だ。

257

その街に関して、うまく思い出せなくなっていることが数多くあった。いくつかの事柄は鮮明 すぎるほど鮮明に記憶しているのに、ある種の事柄はどれだけ努力し…

256

34

最初の雪が降った日の夕方 (十一月もそろそろ終わりに近づいていた)、図書館での仕事を終 えたあと、町に出て…